「探偵物語」(1983年) 「ブラックレイン」(1989年)

松田優作という異色の俳優が亡くなったのは1989年のことで、そのとき僕は9歳でした。テレビのワイドショーで大騒ぎしていた記憶が、かすかに残っています。すごい人なんだ、とは思っていましたが、その後もなかなか作品を観る機会はなく。しばらくして、僕の中では松田優作=謎という公式が出来上がりました。

だいぶ前に「蘇える金狼」(1979年)を観て、松田優作って変わった俳優なんだな、という感想を持ちました。変というか、異常というか。これは、彼がこの映画の中で狂気を抱えた会社員を演じていたせいでもあります。そして久々に観た松田優作が、上記の2つ。「探偵物語」と「ブラックレイン」。どちらも違う味のある、いい作品です。

探偵物語」はベスパに乗った「工藤」という探偵役で… ではないんですよ。あれはドラマ版。こっちは赤川次郎さん原作の、全く違う物語です。当時まだ19歳の薬師丸ひろ子さんがヒロイン役で、まだあどけない表情がとてもかわいい。松田優作さんはヒロインを警護するように依頼された探偵役で、最初はぎこちない関係だった2人が、殺人事件に(自ら)巻き込まれるうちに親密になっていくお話。26年も前の映画だけに、言葉遣いやファッション、音楽がどこか懐かしい感じ。今だとありえないと思うくらいのクサイ台詞や表情も、逆に今だから楽しめるってもんです。

「ブラックレイン」はハリウッド映画。でも、舞台は大阪。はいー? となりますよね。まず、ニューヨークで日本のヤクザ、佐藤(松田優作)が殺人事件を起こし、NY市警の刑事、ニック(マイケル・ダグラス)が身柄を拘束!日本の警察に彼を引き渡そうとします。が、佐藤は見事に逃亡し、大阪の街をスタコラと逃げ回るのです。街の路面からは、NYみたいに地面からスチームが出ちゃってます。演出なんでしょうね。バイクチェイスや激しいアクションもあり、あっという間の2時間でした。
道頓堀(どうとんぼり)にある昔のグリコの看板や新日鉄堺の工場なんかが出てきて、関西の住人には違った視点でも楽しめる映画。僕が苦手なヤクザものなんだけど、そこはハリウッド仕立てだからなんか違った感じ。アメリカから見た異文化としての「ニッポン」がてんこ盛りで、お箸の持ち方に苦労したり、部屋に靴のまま上がって怒られたり…。大阪府警警部補役の高倉健さんの演技が、作品全体を締めております。
松田優作さんは撮影開始当時からガンに侵されていることを知りつつ、延命治療をこばんで映画を撮り終えたそうです。これが、彼の映画作品の遺作となってしまいました。