「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」(1997年、ドイツ)

末期がんを宣告された男が2人。見知らぬ同士だったが、互いの境遇に親近感を覚えてすぐに意気投合。「最後に、まだ見たことのない海が見たい」という1人の願いをかなえるため、盗んだベンツで走り出す。トランクにギャングの大金があったことから、行く先々でトラブルに。それでも2人は協力して苦難を乗り越え、わずかな余命を燃やし切るかのように、再び海を目指す…  そんなお話です。

死を宣告された主人公がやり残したことに挑戦するというストーリーは、無数にあります。いま思いつくものだと、黒澤明監督の「生きる」、洋画だと「死ぬまでにしたい10のこと」など。死は生の延長線上にあるはずなのに、健康な人間はとかくそのことを忘れがち。だから映画では「死」を引き合いに出すことによって、「生」の素晴らしさを浮き彫りにしようとするんでしょうね。

銃を使ったアクションシーンが多いのですが、不自然なくらい誰も弾丸には当たらないし、血も流さないし、もちろん死なない。僕の好きな海外ドラマ「特攻野郎Aチーム」と同じです(笑) 銃という無機質、かつ、くだらないものでバタバタと人が死んでいったら、この映画のテーマである「死」が、とてもとても薄っぺらいものになってしまいますからね。

映画の終盤、ギャングの親玉が、せっかく捕まえた2人を逃がしてしまう場面に説明が足りない気もしましたが、物語のテンポも終わり方も素晴らしく、そんなことはどうでもよくなります。エンドロールのあとにおまけ場面もあって、なんか得した気分。ジャッキー・チェンの香港映画みたいに、すべての映画がエンドロールでNGシーンの総集編を流せばいいのに! どんなに感動する映画でも、驚愕のホラー映画でも、劇場から出てしまえばそこは日常の風景。「現実は映画のようにはいかないよなー」なんてセリフをつぶやいてしまいがちですが、その前に軽妙なNGシーンをはさめば、そんな嘆きもなくなるような気がするんだけどな。映画と現実の境目を穏やかにしてくれる、軽い笑い。勝手に「ジャッキー効果」と、いま名付けました。

話はそれましたが、とにかく素敵なロードムービーなので観る価値はあります。題名がボブ・ディランの名曲から取ったのは言うまでもないですが、どうせならエンディング・テーマもカバーではなく原曲にして欲しかった…。ディランの原曲に勝るカバーは、まだ聞いたことがないです。

この映画のリメイク版「ヘブンズ・ドア」が、2月7日から全国の劇場で公開されていますね。主演が長瀬智也、監督が「鉄コン筋クリート」のマイケル・アリアスとくれば、いやでも期待は高まります。

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